薄桜鬼SSL 土方×千鶴
ハッピーホワイトデー
昼休み。
土方は桜が散りばめられた包装紙でラッピングされた箱を持ちながら国語科準備室の中をうろうろしていた。
今日に限ってなんであいつはこないんだ。
時間が経つにつれ苛立ちを募らせる。
そうしている間に無情にもチャイムがなる。
くそっと悪態吐きながら箱を鞄の中にしまい、授業の準備をして教室へ向かった。
授業を進めながら教室の中を見回し、気付かれないよう様子を伺う。
机にはパンパンの紙袋がぶら下がっている。
一体なんだと思考を巡らせる。
今日はホワイトデー。
とすれば、あの日義理チョコをもらった者がいてもおかしくはない。
日ごろ世話になっている教師、剣道部員、それだけでも結構な数だ。
それを受け取っていたからこれなかったのだろうか。
そこまで数秒で考え、何事もなかったようにまた授業に戻る。
そうして午後の授業を卒なくこなし、職員室へと戻る。
職員会議が始まり早く終われとうんざりしながらも、生徒のこととなれば打って変わり気合いが入ってしまう。
気がつけば学期末テスト、終業式、入学式について熱心に議論し合っていた。
そして会議が終わり職員室へ戻ると、学期末テストの採点を始める。
「土方さん、お先っす~」
「ああ、おつかれ」
一人また一人、順番に帰っていく。
いつの間にやら土方は最後の一人になっていた。
テストの採点が終わり翌日の準備を終えると、荷物を取りに国語科準備室へ向かう。
部屋には明かりがついていた。
点けっぱなしだったか?
そう思いながら扉を開ける。
すると、中には女子生徒が一人。
土方の顔を見るなりパッと顔を輝かせ、こちらへ近づいてきた。
「千鶴! なんでおまえ、ここにいるんだ?」
「だって今日は・・・ 土方先生が忘れる訳ないと思って」
千鶴はニコリと笑ってみせる。
土方は連絡もしていないのに、まさか待っていてくれるとは思いもしなかった。
座って待ってろと指で長椅子を差し、慌てて机の上に置いていた教材を片付け始める。
「本当はお昼休みにこようと思ったんですよ。でも、みんなに捕まってしまって」
「だからってこんな時間まで一人で残ってたっていうのか? いくらなんでも危ないだろ」
「大丈夫ですよ。ここには誰も来ないじゃないですか」
鬼教師と言われるが所以、生徒は好き好んでここにはこない。
来るとすれば、剣道部員や教師ぐらいなもの。
皆千鶴を知る者たちばかりだ。
わかってはいるものの、いざ人に言われるとなんとも言い難い。
「誰もって言うなよ。少なくともおまえは来るだろ?」
土方は苦笑しながら千鶴を見る。
「きっとわたしは変わってるんでしょうね」
千鶴は頬を膨らませ、口を尖らせる。
いかにも子どもらしい仕草に笑いが込み上げる。
「怒ることないだろ」
「怒ってませんー」
しょうがないなと土方は鞄の中からラッピングされた箱を取り出す。
「千鶴。待たせたな」
「ありがとうございます!!」
予想外に可愛らしいラッピングで千鶴の心は弾む。
どこで買ってきたのだろうか。
土方がプレゼントを選んでいる様子が容易に想像できた。
「すごく可愛いラッピングですね」
「・・・まあな」
土方は顔を背ける。照れ隠しだ。
こういうことには疎いであろう土方が自分のために一生懸命選んでくれたのだろう。
千鶴は嬉しくて土方に抱きついた。
「ば、馬鹿、ここは学校だぞ。誰かに見られたら・・・」
「みんなもう帰っちゃいましたよ」
「・・・この前学校だって言ってたくせによ。どうなっても知らねえからな」
土方は千鶴を抱きしめ返すと、誰にも聞こえないような低い声で囁く。
その瞬間、千鶴は耳まで真っ赤にして俯いた。
翌日、上機嫌な土方を見た生徒たちが、天変地異が起こると言っていたとか。
◆ あとがき ◆
前回バレンタイン書いたので、やっぱりホワイトデーもと思い書いてみました。
千鶴ちゃんのことだから義理チョコのお返しいっぱいもらってるんだろうなぁとか。
そんな千鶴ちゃんを待ってる土方さんとか。いろいろ妄想した結果がこれです。
最後、土方さんが何を言ったかはご想像にお任せします。もちろんその後も。
(2012年3月20日)