薄桜鬼 土方×千鶴

約束

「今年も綺麗に咲きましたね」
「ああ、そうだな」

千鶴が桜を見上げて言うと、土方も同じように見上げた。
空は晴れ渡り桜は咲き誇り、これほどの花見日和はないと言い切れるほどだった。

「それより体は大丈夫か?」

土方は先ほどからずっと千鶴の体を気にしていた。
人里離れた場所に住んでいるため、ここ五稜郭までは結構な道のりなのだ。

「大丈夫ですよ。お医者さまも少しは動いた方がいいって言ってましたし」
「遠出だと何かあったら・・・」
「もう、歳三さんは心配性なんですから・・・
皆さんにもご報告したかったんです。きっと見てくれてますよね?」
「ああ、今頃みんな俺に軽口叩いてるだろうよ」

土方は懐かしむように笑う。
皆で花見をしたのが、もう何年も昔のように思えてしまう。
それだけたくさんのことがあったのだから。
だが、こうして桜を見れるのはあと何回だろうか。
難しい顔をしていると、千鶴がポカッと土方を叩いた。

「来年はこの子と一緒に見に来るんですからね」

まるで心の中を見透かしたように頬を膨らませて言う。
土方は苦笑した。

「おまえには敵わないな」

そうして千鶴を抱き締め、優しくお腹に触れた。
日に日に大きくなっていく。夏の終わり頃には産まれるだろう。

「この子の名前、どうしましょうか?」
「そんなの決まってるだろ」
「やっぱり考えてること、一緒なんですね」

千鶴は嬉しそうに笑う。そして二人は桜を見上げた。

「まぁ、女の子だったらな」
「そうですね。男の子だったら歳三さんのお名前を一文字入れたいです」
「俺は千鶴の一文字を入れたいんだが、それなら両方入れるか。
少し気が早いかもしれないけどな」

土方は苦笑する。名前など最初から決まっていたのではないかと思った。
千鶴が子を授かったと報告した日に思い浮かんだのだから。
それ以外は考えられなかった。それは千鶴も同じだった。
二人が愛してやまない桜。力強く咲き誇る姿も、潔く舞い散る姿も美しい。
しばらく無言のまま、二人は桜を見ながら様々なことを思い返していた。
すると、土方は何かを思い出したように、荷を取りに行った。

「みんなに手向けてやらないとな」
「喜んでくれるでしょうか」
「総司が少ないってボヤきそうだな」
「お酒好きでしたものね」

千鶴はふふっと笑いながら、土方と共に酒を桜の根元に手向ける。
そして、ござを敷いて二人は花見を始めた。千鶴は土方にも酒を振る舞う。

「酒は子が生まれるまで飲まないって言っただろ?」
「一杯だけですから」

本当はもっと飲んでもらいたいところだが、土方の言うように何が起こるかわからない。
だから一杯だけなのだ。

「・・・懐かしいな」
「え?」
「あいつらには一杯だけしか飲ませてやれなかった。もっと飲ませてやりたかったな」

そう言って少し寂しそうな顔をした。
そんなことを思い出させるつもりなどなかった千鶴は申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさい。違うんです、今日は歳三さんの・・・」

土方はハッと何かを思い出した顔になる。そう、今日は土方の誕生日だった。
千鶴は何も送るものが用意できなかったため、この日に花見をしようと言ったのだ。
その想いを土方は汲み取ったのか、ぐいっと一気に飲むと千鶴を抱き寄せた。

「と、歳三さん・・・!」

千鶴は真っ赤になった顔を隠すように土方の胸に埋めた。
相変わらず初々しい反応を見せる千鶴に、土方は笑いを堪え切れない。

「もう、笑わないでくださいよ!」
「おまえはホント変わらねえな。まぁ、そのままでいいんだがよ」
「歳三さんだって、ずっと変わってませんよ」
「言ってくれるじゃねえか」
「このままずっと一緒にいられたら・・・」

遠くはない未来に、必ず別れはやってくる。それは千鶴も覚悟の上だった。
だが、ずっと傍にいられたら、どんなに幸せだろうか。

「ずっと傍にいてやるさ。来年は三人で桜を見にこよう」

春はまた訪れる。
毎年桜を見にこようと、この先も共に生きていく約束をした―――

◆ あとがき ◆
土方さんの誕生日用に書いたED後のお花見話。4月からずっと温めてました。
今年は五稜郭の桜の開花予想が5月5日で、これは運命じゃなかろうかと思った(大袈裟^^;)
土方さんの生きる理由はなんだろうかって考えたら、やっぱり千鶴ちゃんと生きてくことだろうし、
二人が少しでも長く共にいられたらという願いも込めてます。
(2012年5月19日)