薄桜鬼 土方×千鶴
ぬくもり
一仕事終えた土方は背伸びをし、机から障子へ視線を運ぶ。
いつもより明るいのは雪の照り返しだろう。
少し休もうと立ち上がると庭先に人の気配を感じ、障子を少し開け外の様子を伺う。
庭には降り注ぐ雪を静かに見上げる少女がいた。
月明かりに照らされた少女は色白で、あどけない笑みを含んだ横顔はまるで雪の精を彷彿させる。
土方は一瞬見惚れてしまったが声をかけた。
「何やってるんだ」
突然声をかけられた少女はびくりと体を震わせる。
振り向いたその顔は先ほどの顔と打って変わり、少し怯えた様子だ。
「その、寒くて目が覚めて・・・ 外を見たら雪が降っていたんです。
江戸ではこんなに積もることはあまりなかったので・・・」
「だからってそんな薄着で外に出るやつがあるか。こっちにこい」
寝間着で髪を下ろしたその姿はどこからどう見ても女にしか見えない。
普段男装しているのに事情を知らない隊士に見られてはまずい。
土方は縁側の前までやってきた少女に、自身が着ていた羽織をかけた。
ずいぶん長く外にいたのか少女の体から冷気を感じる。
「こんなになるまで外にいたのか?」
土方は少女の手を取り、まるで子どもを叱るように言い放った。
余程雪が嬉しかったのだろうか。
怒られた少女は残念そうに俯いてしまった。
「まったく・・・ しょうがないやつだな。体暖めねえと風邪引くぞ」
そう言って土方は軽々と少女を抱え上げる。
小さな悲鳴と下ろしてくださいという抗議を無視して、まだ火鉢の火が残る自室へ戻った。
「あ、あの、土方さん・・・?」
少女は顔を真っ赤にして困ったように上目遣いで土方を見る。
可愛らしい反応に思わず笑みが零れた。
「おまえが風邪引いて寝込んだら困るんだ。
あいつらが入れた茶なんて、もう不味くて飲めねえんだよ」
少女は意外な言葉に驚いた。
土方が照れくさそうに視線を逸らすと、少女は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「わたしも少しはお役に立てているのでしょうか?」
「ああ。おまえがいてくれて助かってる。だから体大事にしろよ」
少女を見つめるその瞳はとても優しく、鬼副長と言われるのが嘘のようだ。
腕の中にいた少女ははい、と小さく頷き甘えるように体を預ける。
土方はその行動に少し驚いたが、そっと優しく抱きしめた。
二人は互いの温もりを感じ、安堵する。
部屋には二人の呼吸と火鉢の音、そして降り注ぐ雪の音だけが響いていた。
火鉢の火が消えた頃、少女は土方の腕の中でぐっすり眠っていた。
土方は朝起きた時に困らないよう少女を部屋まで運んだ。
冷えた布団は寒いだろうと羽織はかけたまま、起こさないように布団をかける。
無防備で眠る少女の顔に触れ、頬に触れるだけの口づけを落とす。
「おやすみ、千鶴」
耳元で優しく囁く。
そうして土方は自室へ戻り、眠りについた。
朝、目を覚ますと見慣れた天井が目に入り、千鶴は真夜中の出来事は夢だったのではないかと思ってしまう。
だが、寝ぼけた体を起こして着ている羽織に気付き、夢ではなかったのだと実感する。
愛おしそうに羽織ごと自身を抱きしめた。
そして、この日は一日土方の機嫌が良く、沖田たちが気味悪がっていたとか。
◆ あとがき ◆
わたしの住む地方はたまにしか雪が降らないんですが、珍しく降ってテンション上がったので勢いで書きました(笑)
江戸ではあまり雪が降らないような感じだったので、雪が嬉しくて子どものように喜ぶ千鶴ちゃんと、
そんな千鶴ちゃんを心配する土方さんが書きたかっただけです。
千鶴ちゃんが自分の気持ちをうっすら自覚し始めた頃(?)と思うので西本願寺ぐらいの話かな。
(2012年2月14日)