薄桜鬼 土方×千鶴
ひと時の安らぎ
「今夜んとこは俺の部屋を使ってろ」
千鶴が土方の部屋へ行った後、部屋の片づけを原田、永倉、藤堂に任せ、
土方は今後について斎藤や戻ってきた近藤たちと話し合い取り決めた。
幹部が揃うまでの間、皆自由に話していたが、土方は上の空で聞いていた。
もっと早く駆けつけていれば。
もし襲われたのが自分や隊士であれば。
嫁入り前の娘に一生残るような刀傷を負わせたことに責任を感じていた。
一点を見つめたまま怪訝な顔をしていると声をかけられた。
「・・・副長、どうかされましたか?」
「ん? トシ、何か気になるのか?」
「あ、いや、なんでもねえ。明日・・・」
「土方さん、片付いたぜ」
言葉を遮るように、部屋の片付けを終えた原田たちがやってきた。
「そうか。助かる」
「これからどうするんだ?」
「伊東には明日、近藤さんと山南さんから話をしてもらう」
「あとは伊東がどう出てくるか、ってことか」
皆、顔を見合わせる。
いずれ山南が生きていることは知られるところだっただろう。
それが少し早まっただけだ。
もし俺たちの邪魔立てをするならば始末するしかない。
言葉にせずとも土方の考えていることは幹部たちに伝わっていた。
「・・・今日はもう遅い。ひとまず皆休んでくれ」
近藤の言葉を解散の合図とし、それぞれ部屋へと戻っていく。
その中でも土方の足取りは普段よりも少し重かった。
血で赤く染まった寝間着。
恐怖に歪んだ顔。
一人で怪我の手当ては出来ただろうか。
腕は動くだろうか。
あの時、触れた肩は震えていた。
泣いていないだろうか。
まだ起きて待っているかもしれない。
いろいろな思いが頭の中を駆け巡る。
そして、静かに部屋の障子を明けると月明かりが部屋の中にいた千鶴の姿を照らし出した。
「なんて格好で寝てんだよ、おまえは」
千鶴はざぶとんの上から転げるように畳の上で眠っていた。
着替えた寝間着は少し大きいのか胸元が肌蹴ている。
いくらなんでも無防備すぎるだろうと溜息をつく。
顔を覗くと左頬にはくっきりと畳の跡があり、土方はふっと鼻で笑った。
腕には痛々しいほどに何重にも包帯が巻かれている。
傷口に触らないよう、そっと抱き上げ布団へと運ぶ。
その時、布団が一つしかないことに気づいた。
怪我の手当てをした後、ざぶとんの上に座って戻ってくるのを待っていたのだろう。
土方はたまらず千鶴をぎゅっと抱きしめた。
「おまえがもし嫁に行けなかったら、俺が責任取ってやる」
だから心配しなくていい。
そう言い聞かせるように土方は腕の中にいる千鶴を愛おしそうに見つめ、額にそっと口付けた。
千鶴を布団に寝かせ自身も寝間着に着替えると、添い寝するように千鶴の横に寝転がる。
春の初めはまだ肌寒い。
風邪を引かないようにと肩まで布団をかけた。
穏やかな吐息を立てながら眠る千鶴を見ていたが、土方もいつしか眠りについていた。
◆ あとがき ◆
新年一発目は土方さん視線で書かせていただきました。西本願寺で千鶴ちゃんが腕を切られた日。
土方さんは女の子である千鶴ちゃんに刀傷を負わせて、きっと自分を責めただろうなと。
土方さんが千鶴ちゃんを心配するお話です。
千鶴ちゃんが可愛くてどうしようもない土方さんの心情が伝わればいいなと思っています。
(2012年1月14日)