薄桜鬼 土方×千鶴

メリークリスマス

「クリスマス? なんだそれは」

久々に様子を見に来た大鳥から聞いたこともない言葉を耳にして、土方は怪訝な顔をする。

「西洋ではキリスト教の降誕祭が行われるそうだよ。
この日は家族や大事な人と一緒に過ごす日なんだ。
まぁ、土方くんの場合は毎日一緒だから変わらないか」

ははっと笑う大鳥を土方は睨みつける。
だが、大鳥は気にせず続ける。

「あとね、愛する人に贈り物をする日でもあるそうだよ」

ニコニコと笑うその顔に毒され、土方は溜め息をつく。

「大鳥さん、あんたが何言いたいかわかった。だが、生憎俺は死んだ身だからな。
俺はあいつに大したことはしてやれねえんだ」
「わかっているよ。そういうことにしたのは僕の責任だし」
「いや、別にあんたの責任だとか言ってるんじゃなくて・・・」
「でもね、いつまで雪村くんを待たせておくんだい?
傍から見てる僕でさえやきもきするんだから、彼女はもっと・・・」

部屋に近付く足音に気付き、大鳥は途中で話をやめた。

「大鳥さん、お茶をどうぞ」
「ありがとう雪村くん。君のお茶は本当に美味しいね」
「わたしにはこれぐらいしかできませんから」
「毎日こんな美味しいお茶が飲めるなんて、土方くんが羨ましいよ」

ゴホンと咳払いをした土方を見て、千鶴は苦笑する。

「ありがとうございます。それではわたしはこれで」

千鶴は一礼し、部屋を出ていった。
閉められた戸を見つめたままの土方を見て大鳥はやれやれと溜め息をつく。

「贈り物というのはね、気持ちの問題だと思うよ。物がなくても形にすることはできるんじゃないかな」
「言われなくてもわかってる」

ムスっとした顔を見て、大鳥の顔に再び笑みがこぼれる。

「じゃあ僕からはもうこれ以上言うことはないか。それじゃあ帰るよ」
「なんだ。話はあれだけか」
「まだ新政府でも落ち着かないんだよ。また何かあれば報告にくるから」
「ああ頼む。まぁ俺がどうこうできる訳じゃないけどな」
「それは僕も同じだよ。じゃあ雪村くんにもよろしく」

そして大鳥は帰っていった。

それからしばらくして日が暮れた頃―――

「土方さん、さっきからどうされたのですか? 何かお悩みですか?」
「ん? ああ、いや、なんでもないんだ」

大鳥が帰り際に言ったことが頭から離れない。

「ちなみにクリスマスは明日だからね。今晩はクリスマスイヴだよ」

夕飯を食べた後、土方は部屋に戻り一人考えていた。
函館戦争が終結してから早3年。
大鳥が出獄するまでの間はただ見つからないようにと身を隠していた。
不便ではあったが、千鶴が側にいてくれるだけで十分だった。
だが、大鳥に指摘され、いつまでもこのままでいる訳にはいかないと考えていた。
千鶴は今までずっと何も言わなかったが、待たせていたに違いない。
そして意を決したかのように居間に戻る。

「・・・千鶴。ちょっといいか」
「はい、なんでしょうか」

千鶴は丁度入れ終わった温かいお茶を土方に差し出した。
土方は黙って受け取り一口飲む。
蝦夷の寒さで冷え切った体が芯から温まっていく。
まるで千鶴そのものの温かさのようだと土方は感じていた。
自然と顔が綻ぶ。

「土方さん。お話というのは・・・」
「ああ、それなんだがな。単刀直入に言う」

少しの緊張が走る。
千鶴が身構えると土方は苦笑しながら言った。

「夫婦になろう」

突然のことに千鶴は言葉が出ず、ただただ驚いていた。

「ずっと待たせてすまなかった」
「いえ、そんなこと・・・!」

慌てる千鶴を土方はそっと抱き寄せた。

「俺は今までずっとおまえの善意に甘えてただけだ。
おまえの気持ちを知っていながら俺はなんにもできやしなかった。
だが、これからは家族としての幸せをおまえに与えてやりてえんだ」

その言葉を聞き終えると同時に千鶴の目から止めどなく涙が溢れた。

「本当に・・・ 本当に、わたしでいいんですか?」
「野暮なこと聞くなよ。おまえ以外に誰がいるってんだ?」
「わたしは土方さんの側にいられるだけで幸せなのに・・・ これ以上幸せになってもいいんですか?」
「ああ、もっともっと幸せになろうな」

土方は頬を伝う涙を指で拭う。
そして千鶴の顔に手を添え、優しく口付けた。
二人はしばらく抱き合ったまま、お互いの温もりを感じていた。

「・・・メリークリスマス、ですね」
「なんだ、知ってたのか?」
「いえ、大鳥さんに聞きました」
「あの野郎・・・」

ふふっと千鶴は笑う。
大鳥の思惑通りになってしまったことに土方は不満だったが、千鶴と一緒になるきっかけをくれたことに感謝した。

◆ あとがき ◆
クリスマスなので何かしたいと思い、再び勢いで書いたものです。ED後のお話。
函館戦争から3年後(史実に合わせて)大鳥さんが出獄してから何度目か様子を見に来た際に土方さんにクリスマスを教えてくれて、
土方さんは千鶴ちゃんに何をプレゼントするのかという話です。
書き始めた時はプロポーズさせるつもりじゃなかった筈なんですがーー;
二人には幸せになってほしいという思いを込めて。
読んでくださった方々の心がほっこりすれば良いなと思っております。
(2011年12月24日)