FE覚醒 クロム×ルフレ♀
優しい人
エメリナを失い、クロムたちは命からがら逃げるしかなかった。
馬車に乗ってフェリア領に入り追手もなくなったところで、疲れ切った兵たちを一度休ませることにした。
クロムに代わってルフレが指示を出し、手際よく天幕の設営を進め日が暮れる頃には皆夕食を取っていた。
そうして夜も更け始めた頃、ルフレは隣で寝ているリズを起こさないよう静かに天幕を出た。
「おや、ルフレじゃないか。こんな時間にどうしたんだい?」
突然声を掛けられ驚いたように振り返ると、フラヴィアが剣を片手に担いでいた。
「眠れないのかい?」
「はい。フラヴィア様は?」
「わたしも眠れなくてね。今まで訓練してたんだ」
「なんだ、おまえらも起きてたのか」
するとフラヴィアの後ろからバジーリオがやってきた。
皆思うところがあって、やはり眠れないのだろう。
「バジーリオ様も眠れないのですか?」
「まあな。みんな同じか」
「で、ルフレはこれからどこ行こうってんだい?」
「お夜食を作ろうと思いまして」
誰にとは言わずとも、フラヴィアもバジーリオもすぐにわかってしまったようだ。
「まったく世話が焼けるやつだね」
「あいつホントにいい女捕まえたもんだな」
「な、何をおっしゃってるんですか。そんなこと・・・」
ルフレは顔を真っ赤にして言葉に詰まる。
二人は顔見合わせて笑い出した。
「ほら早くお行き」
フラヴィアに背中を押され、一言礼を言ってルフレは食糧の置いてある天幕へ向かった。
ありものだけであっさりした食べやすい物を簡単にこしらえる。
少しでも食べてもらえればいいなと思いながら、その場を後にした。
「クロムさん、起きてますか?」
中から返事はなかったが、ルフレは明かりのついたクロムの天幕に入った。
クロムはじっと座ったまま、黙り込んでいた。
「やっぱり起きてたんですね。夕食の時いらっしゃらなくて皆さん心配してましたよ」
「ああ、すまない・・・」
反応は鈍く、言葉も少ない。どこか上の空だ。
「お夜食作ってきました。ここに置いておきますから食べてくださいね」
「悪いが今はそんな気分じゃない」
敬愛していた姉を失ったのだから、クロムは誰よりもつらいはずだ。
だが、ルフレも助けられなかったことをとても悔やんでいた。
それでもとルフレは口を開いた。
「こんな時だからこそ食べていただきたいんです。いざという時に力が入らなければ戦えませんから」
そういってルフレは目に涙を浮かべながら優しく微笑んだ。
エメリナは初めて会った日、クロムが信じているからといって信じてくれた。
素性もわからないのに、優しく接してくれたことが忘れられなかった。
クロムの前では泣くまいと我慢していたのに、涙は溢れ頬を伝う。
手で拭おうとすると急に腕を引かれて体勢を崩した。
小さな悲鳴を上げると同時にクロムの腕にしっかり抱えられていた。
そして、そっと優しくクロムはルフレの涙を指で拭った。
「ごめんなさい・・・ わたし、クロムさんの前では絶対泣かないって決めてたのに・・・」
「いや、謝らなければいけないのは俺の方だ。俺はこの軍の将なのに全部おまえに押しつけて・・・
すまない、無理をさせてしまった。もう我慢しなくていいぞ」
その言葉を聞き終えるとルフレはクロムの胸に顔を埋め、堰を切ったように止めどなく涙を流した。
クロムはルフレが泣くところを初めて見た。
もしかしたら今まで一人で泣いていることがあったのではないか。
そう思うと自身が許せなかった。
俺はいつも自分のことばかりだな・・・
「ルフレ」
名を呼ばれルフレが顔を上げると、クロムは涙の痕が残る頬に口づけをした。
ルフレが驚くのも気にせず、クロムは何度も口づける。
そうしてルフレの唇を奪うように深く口づけた。
「ん・・・」
息苦しくなりルフレが唇を離そうとしたが、クロムはより一層深く口づけ舌を絡ませた。
これまでに何度か口づけを交わすことはあったが、これほど深いものは初めてだった。
ルフレはもはや抵抗できず、クロムにされるがままだった。
やっとのことでクロムが唇を離すとルフレは息を切らし呼吸を整えていた。
クロムはルフレを軽々と抱き上げ、自身の膝の上に座らせた。
「これからは我慢しないでくれ。ルフレが一人で泣くなんて、俺は、俺が許せなくなる」
「そんな、クロムさんのせいじゃないんですから」
「そうだとしても! ルフレの悲しみも・・・ 悲しみだけじゃない、喜びもなんでも分けて欲しいんだ。
おまえのことは全部知っておきたいんだ」
「クロムさん・・・」
クロムは初めて会った日のように、優しい目をしていた。
間近で見た青い瞳はまるで空のように広く、すべてを包み込んでくれるような気がした。
現に今クロムはルフレのすべてを受け入れようとしてくれている。
ルフレは嬉しくて甘えるように体を預けた。
普段このようなことをしないため驚いたものの、クロムはルフレを優しく包みこむように抱きしめた。
二人は見つめ合い、今度は触れるだけの口づけを交わした。
そして、クロムはルフレが作ってくれた夜食を食べることにした。
クロムが食べ終えるまでルフレは寄り添うようにしてずっとクロムの傍にいた。
この先何があろうとルフレを絶対に離さないと、クロムは心に誓うのだった。
◆ あとがき ◆
クロムとルフレの支援S会話後で、エメリナ様が亡くなってすぐのお話。
フェリアに戻るまでって結構な距離あるよなー、どっかで野営したりしてたんだろなーとかいろいろ考えてる間に出来上がったお話です。
クロムが凹んでる時にルフレならどうするだろうか、普段は気丈に振舞ってるルフレが泣いたらクロムはどうするだろうか、と好き勝手妄想しながら書かせていただきました。
(2012年6月23日)