FE覚醒 クロム×ルフレ♀
小さな幸せ
「女の子か・・・」
クロムは吐き捨てるように呟き、盛大な溜め息をついた。
先ほどルフレに言われた言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡っている。
改めて言われると確かに女の子なのだが、そのように意識して見たことはなかった。
「女の子がどうしたの、お兄ちゃん?」
「うわぁぁぁっ!」
まさか独り言を聞かれていたとは思わず、飛び上がるように驚いた。
リズはそんなクロムの反応を見て、きょとんとしていた。
「急に声かけるなよ。驚くだろ」
「だって珍しく溜め息なんかついてるから、どうしたのかなと思って」
「な、なんでもない。気にするな」
「ふーん、それならいいけど・・・」
変なお兄ちゃん、とリズは思ったが本来の目的を思い出す。
「お兄ちゃん、ルフレさん知らない?」
「ル、ルフレならさっき・・・ 部屋にいなかったのか?」
「いないから探してるんじゃない。もうすぐ晩ご飯なんだけど」
「わかった、ルフレは俺が探す。リズは飯の準備を手伝ってこい」
「え、いいの? じゃあお兄ちゃんお願いね。ちゃんとルフレさん連れてきてよ」
リズは念押しして食堂の方へと戻って行った。
つい先ほどまでのルフレとのやり取りを思い出す。
ゆっくり休むようにと言ったが、部屋にいないとなると一体どこへ行ったのだろうか。
もしかしたら町に買い物へ行ったのかもしれない。
だが、もう日は暮れ始めている。さすがにこんな時間に買い物は行かないか。
そう思い、クロムはひとまず自警団の拠点を探し回ることにした。
一通り建物の中を見て回ったがどこにもいない。
もし他の誰かの部屋にいればリズが声をかけているはずだ。
「あとは中庭と屋上か・・・」
中庭ではヴェイクやソール、ソワレたちが訓練ついでに対決していたようだ。
どうやらソワレの一人勝ちのようで機嫌の悪いヴェイクをソールがなだめていたが、
マリアベルが何か言ったのかヴェイクが荒れている。
ちょうどそこへリズが止めに入って皆和気あいあいと食堂へ向かっていった。
だが、そこにもルフレはいなかったため、クロムは屋上へ向かう。
階段を上ると真っ赤な夕日が目に入り眩しそうに目を細めた。
そして辺りを見回すと物思いに耽るルフレの姿があった。
その横顔はどこか寂しそうで、クロムは声をかけるのを躊躇う。
(ああ、女の子なんだな・・・)
記憶喪失で自分が何者なのかわからないのだから無理もない。
町を救うのを手伝ってくれただけで信用した自分とはやはり考え方が違うのだ。
それでもルフレが何者だろうと信じると決めた。
姉であるエメリナもそう言ってくれた。だからルフレの力になろう。
クロムは意を決するようにルフレの傍へ向かった。
「探したぞルフレ。どうしたんだ? 何かあったのか?」
「クロムさん・・・」
困ったように見上げてきたルフレにクロムは優しく微笑んだ。
「もし何か困ってるなら話してくれないか。俺はルフレの力になりたい」
「ありがとうございます。でも、お気持ちだけで十分ですよ」
「だ、だが・・・」
「わたし自身の問題ですから」
クロムの予想どおりルフレは自分が何者であるのか悩んでいたのだ。
ルフレが自分で思い出すしかないのはわかっているが、どうしても力になりたかった。
「俺がルフレをいろんなところへ連れて行ってやる。そうすれば何か思い出すかも知れないだろ?」
「そんなご迷惑おかけする訳には・・・」
「それなら記憶を取り戻すまで俺に力を貸してくれないか?
一緒にいろんな町へ行って、困ってる人たちを助けるのを手伝ってくれ」
迷惑かけたくない気持ちを汲んでくれたクロムの提案に、ルフレは嬉しそうに微笑んだ。
「わたしの力がお役に立つのでしたら、喜んでお手伝いします」
「そうか。それなら良かった」
クロムはホッとしたように微笑んだ。二人は互いを見つめ合うように笑っていた。
この時、夕日に照らされていたため、顔がほんのり赤くなっていたことに二人は気付かない。
そしてクロムは何か思い出したようにハッとする。
「そうだ、リズがそろそろ晩ご飯だって」
「え、ホントですか! 今日はなんでしょうね?」
「行ってみないとわからんが、熊肉ではないのは確かだな」
クロムがふっと鼻で笑うとつられてルフレも笑った。
ルフレは立ち上がり、クロムに手を差し出した。
「早く行かないと食べられてしまいますよ」
そうして二人は自然と手を繋いでいた。あたかもそれが当たり前のように―――
食堂に着くと皆集まっており、リズに手招きされてルフレは自席へ駆けていく。
クロムが席に着くとお祈りをして一斉に食べ始めた。
会話に花が咲き、食堂には遅くまで笑い声が響いていた。
◆ あとがき ◆
クロムとルフレの支援C会話後、自警団の拠点でのお話です(1章クリア後~2章始まりまでの間)
これから起こることなど露知らず、平和なひと時の一コマを書いてみました。ルフレの口調は私1です。
(2012年5月20日)